イオノサーマル法を使った単結晶ジルコニアナノシートの合成

僕がこれまでやってきた研究はイオン液体を使った形態制御、錆を使った光触媒反応、脱窒菌の代謝制御のための細胞外電子移動、人工細胞膜を使った匂いセンサ開発がある。今回はジルコニアのナノシート合成について書く。

ジルコニア、ZrO2は工業的に重要無材料であり、触媒の母材や生体材料、燃料電池の電解質など幅広い分野で使われる材料である。特にエネルギー分野に関係する燃料電池ではホットトピックの一つであり、その研究課題の一つが高効率化と小さく軽くするための薄膜化であった。

そこで着目したのがジルコニアのナノシートを創ることだった。それもナノシート一枚、一枚を均一な単結晶で創ろうとしたのだ。この単結晶ジルコニアナノシートを創ることのメリットは三つあり、その一つがナノシートという厚さが数ナノメートルという形状に起因する。この極薄のナノシートを使えばこれまでにない小型化が達成できる。さらに、薄いことで電解質が小さくなるので単位時間あたりのエネルギー出力が増える。

二つ目のメリットはナノシートは一枚の独立した膜であること。これにより、多孔質素材の上にふりかけて膜を形成することができるのだ。燃料電池の陽極や陰極では電気化学反応が起こり、これにより電気を生み出している。だから、電極反応を出来るだけ多く進めるために電極自体を多孔質化して表面積を大きくするのだ。そのため通常のスパッタ法では多孔質材料に薄膜を作ることができない。一方で、ナノシートはすでに独立している膜なので、多孔質の上にふりかけるだけで膜を作ることが可能になるのだ。

三つ目のメリットは、単結晶であること。単結晶は均一なので、中を通る酸素イオンかスムーズに移動できる。そのため効率が上がるのだ。これまでグラフェンや酸化グラフェンをテンプレートと利用したジルコニアナノシートはあったのだけど、これらのテンプレートを利用した合成方法では単結晶のものは作るのが難しく、粒界を持つ多結晶となってしまう。

単結晶ジルコニアナノシートを合成するために着目したのはイオン液体を高温にして反応場として利用するイオノサーマル法だった。利用したイオン液体はイミダゾールを含み平面状に並びシートができやすい状態にすると考えられていた。

僕の研究室ではこのイオン液体を使って単結晶ジルコニアナノシートを創ろうとした。でも、なかなできなかった。初めはイオン液体のアニオン部位に塩素イオンを持つものを使ったのだが、なかなか結晶化しなかった。そして、結晶化させるためにフッ素系のイオン液体に変えた。すると目的としたジルコニアにはならずジルコニウムのフッ化物になったのだ。形状を調べてみるとなんと目的のシート構造になっていた。

フッ化物から目的となる酸化物に変化させるのは簡単だ。それは空気中で加熱し、フッ素を結晶内から分解脱離させ、空気中の酸素と置換させればできる。

だから、僕は単純にフッ化物を焼いたのだ。すると目的となるジルコニアはの結晶ができたのだけど、顕微鏡をみてみると残念ながらその形態はシート構造が変化し多孔質化していた。つまり、シートに複数の穴が空いていたのだ。おそらく熱分解過程に壊れていったのだろう。

まあ、せっかく多孔質のナノシートができたので、吸着特性と熱分解過程を調べて論文にまとめた。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2015/DT/c4dt03737e#!divAbstract

そのあとで、なんとかシート構造を保ってジルコニアを作れないかを試行錯誤した。なかなかできないのでヤケクソになり、高級なイオン液体と一緒に焼き始めた。すると、偶然シート構造を保ったジルコニアができたのだ。これは僕が初めて経験したセレンディピティだった。

イオノサーマル法でジルコニアナノシートができたのはよかったのだが、ここから単結晶であることのデータを集めるのは大変だった。

結果としてなんとか論文にまとめ、受理された。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsanm.9b01312
編集者とのやり取りで、論文の表紙を出してみないかと言われて、挑戦することにした。初めは僕自身が書こうと考えたのだが、画力が全く及ばない。知り合いの人にお願いして描いてもらうことになった。詳しい内容はこちらの記事を読んでください。

今後の課題はイットリウムやセリウムなどを一部置換し酸素導電率を向上させることが大切。また、実際に燃料電池を組むことができるかを検証していく必要がある。

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